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  • __2010.Jan.
  • __Architectural Renovation
K House Project ~Japanese House Renovation~
K邸改修計画

東京都北区にある築30年の木造住宅をDMAAが改築設計した。

施主は高齢の夫婦である。すべてヒノキで作られた木造の家屋は、30年の時を経ても 寸分の狂いなく、きちんと建っていた。構造補強さえすれば、改築までする必要はないのではないかと思った。

だが――。建物は変わらずとも、人は変わる。30年を経れば別人になもなろう。施主の夫婦はともに80歳を超えた。 歩くのが少し億劫になってきた。家の外に出る機会がめっきり減った。気がつけば日がな一日、薄暗い居間でテレビを見て過ごす。 家の中で、彼らは時間の大半を費やしていた。

当初はバリアフリー化が求められたのである。高齢の夫婦のために、少しでも安全な家を。それが我々に相談に来られた、 施主の娘さんの願いだった。それは無論、果されよう。だが安全なだけで良いのか。「死なない」ための住宅と、 「生きる」ための住宅とでは、違うのではないか。

提案をした。生きるための家を作りませんか――。家の中に居ても四季の移ろいが感じられる。朝夕の太陽のリズムに 共鳴できる。そんな家を作ってみませんか、と。

やがて設計を開始した。我々のやったことはたった一つだ。家の真ん中に、穴を開けた。屋根を穿ち床を剥ぎ、かつては客間だったところを 庭にしてしまった。そしてそのまわりを周回できるように、すべての部屋をつなげた。

庭が主役だ。石正園の平井孝幸さんにお願いした。雑木風の庭を作ってこの人の右に出る者はない。 中庭のほかにも、住宅の外構に小さな庭をたくさん配置した。住宅はあちこちに窓を穿ってある。 家の中を歩いていると、そうした庭が視線の先々に見えて、ふと森を歩くような感覚に襲われる。

屋根をはずした日のことを、今でもよく覚えている。工事は難航していた。予定を大幅に超え、 1週間も工事が延びたその日の夕方、屋根が空いた。目の覚めるような瞬間だった。 夕陽の紅い光が、薄暗い家の内部を朗々と照らした。壁を斜めに伝って影が伸びる。 見上げれば空にうろこ雲が揺れている。 トンボがふと迷い込んできて、彼がこの新しい家の最初の訪問者になった。

中庭には、春の木、夏の木、秋の木、冬の木が植わっている。四季によって風景が変わるだろう。 中庭の脇に立つ柱には日時計の役割を持たせてある。朝から夕へ、柱の影が家の中を渡ってゆく。 日の低い冬には居間に光が差し込むよう、中庭を覆う壁面は厳密に計算されてその高さが決められている。

竣工後、しばらく経って施主のもとを訪れた。ご婦人は中庭の脇に、昼寝用のベッドを配置していた。 そこに寝て木漏れ日を受け、空を仰いで雲の流れを楽しむのだそうだ。「最近、すずめがやって来るんですよ」 と嬉しそうに話されていた。「生きる」ための家――。我々が空想したそんな夢が、 彼女たちの生活を少しでも楽しいものにしているならば、これほど嬉しいことはない。

余談だが、この改修計画の工事は、とある大工にお願いした。30年前、この家を作ったその人だ。 当時35歳、宮大工として働いた腕はさらに磨きをかけ、今も現役で仕事場に立っている。 家の様相を大きく変える工事だからこそ、かつての製作者にお願いしたかった。 工事中、当時の様子をお施主さんと懐かしげに話されているのを見て、家とは歴史なのだと、 感慨深く思ったのを覚えている。